最近、介護施設に入っている認知症の人が心不全で運ばれてくることが多くなりました。一緒に来た職員に飲水量を聞くと、一日1.8ℓ以上を目標にしていると言います。なぜそんなにたくさん水を飲ませるのかと聞くと、「施設の方針だから。水をたくさん飲ませないと認知症が悪くなるから」と言います。高齢者に食事の他にそんなにたくさんの水を飲ませると、心臓に負担がかかり、心不全になります。尿量が増えるためトイレに間に合わず失禁したり、オムツ交換の回数も増えます。そして、無理に水を飲まされる高齢者のつらさと、いやがる高齢者に水を飲ませる職員の負担は相当なものです。なぜそんなことになっているのかと、Googleに"認知症、水分補給"と入れてみました。目に飛び込んできたのは、
- 脱水状態が認知症の原因に!
- 認知症状がひどくなる原因は脱水症状?
水分摂取で悪化予防・介護負担軽減!
- 梅○○○○も衝撃 「水分不足で認知症に」と識者が警鐘
- 水分不足で認知症に!
毎日1.5ℓの水分摂取が認知症を予防して治す
なんだかどきっとします。「水を飲めば認知症にならない!」と錯覚してしまいます。
水分が不足すると脱水になり、ひどくなると意識がぼんやりする「せん妄」が起こります。日付や場所がわからなくなり、つじつまが合わない言動になり、幻覚が出ることもあります。せん妄は認知症の症状によく似ていますが、認知症ではありません。脱水によるせん妄は水分補給で改善しますが、認知症の症状は水分補給では改善しません。認知症は脱水が原因ではないからです。「水分不足で認知症に」は間違いで、「水分不足でせん妄に」が正しいのです。もちろん、認知症の人も水分不足でせん妄になりますから、注意が必要です。
高齢者は口渇を感じにくいので、自から進んで水分を摂ろうとはしません。そのため、周囲が水分を勧めることが必要です。しかし、問題はその量です。
高齢者の1日の水分必要量は体重50kgの人は1500~2000ml (30~40ml/kg)です。この数字は食事の中の水分も含んでいます。食事の中の水分量は1日約1000ml/日なので、食事以外の水分摂取量は1日800 ml ぐらいが望ましいことになります。1日1500 ml も飲ませたら体は水分過多になってしまいます。働いている私たちでも、1000 ml ぐらいしか飲みません。
若い人に比べ、高齢者は脱水になりやすいです。そのため水分補給はせん妄予防のために大切です。しかし、過剰な水分摂取は「過ぎたるは及ばざるが如し」です。認知症介護に関わる方は、正しい知識を持って欲しいです。
「認知症を堂々と生きる−高齢者終末期医療・介護の現場から−(中央公論新社)」コラムから
キーワード 認知症、高齢者、水分補給