循環器疾患のお薬には、作用が異なる様々な薬があります。処方薬を理解し、正しく服用(使用)することは、病状を改善、維持するうえで、とても重要です。
お薬の作用と副作用を一緒に勉強し、上手な薬との付き合い方を身につけましょう。
服用時間ごとにまとめたり(一包化)、飲みにくい薬の変更などを、保険薬局の薬剤師と連携したりしながら、安全で安心な薬物治療を続けていくお手伝いをしていきます。
薬は吸収、分散、代謝、排泄を経て、体内の薬の濃度が一定になることで、期待した効果を発揮します。飲み忘れると、薬の濃度が低くなり、効果がうまく発揮できません。吸収、分散、代謝、排泄は人ごとに能力が異なりますし、他の薬で強くなったり弱くなったりしますから、例えば排泄能力が低い人が普通の人と同じ量を服用すると、体内に薬が蓄積して副作用が起きてしまいます。
安全に薬と付き合うためには、医師の指示を守って服用するとともに、副作用を理解し、もしもの時は医師や薬剤師に早めに相談できるようにすることが大切です。
心不全は心臓のポンプ機能が低下し、酸素を含む血液を全身に十分に送り出せなくなる病態です。 心臓のポンプ機能が低下すると、肺に血液が溜まり、肺に戻ってきた血液を全身に送り出せなくなるため、息切れや呼吸困難が起こります。また、全身の血液の循環が悪くなるため、足に血液がたまり、むくみやすくなります。そのほか、食欲不振や倦怠感、動悸なども起こります。 心不全のお薬は大きく分けて、心不全の症状を改善するお薬と、心不全の進行を抑えるお薬があります。 |
一般に心不全では、心臓のポンプ機能が低下することにより、体内に水分が貯留します。水分が貯留することで、さらに心臓に負担がかかります。利尿薬は、体内に溜まった余分な水分をおしっことして排出する薬です。心臓にかかる負担を減らし、肺や下肢に溜まった水分を排出することで、呼吸困難やむくみなどの症状を改善します。
- 脱水
- 血圧低下
- 耐糖能低下(血糖上昇)
利尿薬のうちトルバプタン(商品名:サムスカ錠)というお薬は、利尿効果が強く喉が渇くことがよくあります。そのような場合には、水分を補給するなど脱水症状に注意してください。
心臓のポンプ機能を強めることで、全身への血液循環を改善するお薬です。息切れや呼吸困難などの症状を改善します。 強心薬には、ジギタリス製剤、ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬などがあり、それぞれ異なる作用で心臓のポンプ機能を強めます。 |
- ジギタリス中毒
ジギタリス製剤では血中濃度(血液中の薬の量)が上昇することにより、不整脈、視覚異常(光がないのにちらちら見える)、めまい、頭痛、悪心嘔吐、食欲不振などが起こることがあります。 - ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬では、不整脈、血圧低下などが起こることがあります。
- ジギタリス製剤は体内に蓄積しやすく、治療域が狭いため、投与中は定期的に血中濃度を測定する必要があります。
- 高齢者や腎機能が低下している患者では、ジギタリス中毒が起こりやすいので注意してください。
これまでベータ遮断薬は、心筋収縮力を抑制するなど心臓の働きを抑える効果があるため、心機能が低下している心不全の患者さんには使ってはいけないお薬といわれていました。しかし少量から開始し、時間をかけて徐々に増量すれば、ベータ遮断薬は、心不全によって活発になった交感神経という神経をおさえ、働き続けている心臓を休ませる効果があり、心臓にかかる負担を和らげるため、心不全の患者さんに使われるようになりました。長期的に服用することで慢性心不全の進行を抑えるため、生命予後の改善が期待できるお薬です。 |
- めまい、疲れやすい、動悸、脈が遅くなる
副作用が気になる場合は必ず主治医に相談しましょう。
ベータ遮断薬は通常ごく少量から飲み始めて、心臓の働きや副作用を見ながら徐々に量を増やしていきます。症状の改善には服用開始後2~3ヶ月掛かるため、毎日忘れず飲み続けることが大切になってきます。調子が良いからといって自己判断で薬の服用を中止することは、心不全の悪化につながります。
ARB、ACE阻害薬は心不全によって、活発になったレニン・アンギオテンシン系というホルモンの働きを抑えて心臓を保護するお薬です。ベータ遮断薬と同様、慢性心不全の進行を抑えるお薬です。
- 空咳(痰がからまない咳):ACE阻害薬服用中に見られることがあります。空咳が見られた場合は主治医に相談してください。
- 血管浮腫(顔や唇、舌、喉がひどく腫れる、息がしにくい)
このお薬は心臓を保護する効果のほかに、"血圧を下げる"効果もありますが、慢性心不全の患者には心臓の保護を期待して出される薬です。血圧が低いからといって、自己判断で服用を中止しないでください。血圧が低いことが気になる場合は、必ず主治医に相談してください。
心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を供給する冠動脈と呼ばれる血管が狭くなったり、完全に詰まり血流が途絶えてしまうと、心筋に必要な酸素を送ることができなくなり、心筋が酸素不足状態になります。このような病態を虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)といいます。 動脈硬化や血管のけいれん、血栓による血管の詰まりなどで、冠動脈が狭くなると、血液が十分に心筋にいきわたらなくなるため、心筋が酸素不足状態となり、胸痛等の症状があらわれます。 虚血性心疾患の治療に用いるお薬は、胸痛発作を予防する薬、胸痛発作を和らげる薬、血栓をできにくくする薬、動脈硬化を改善する薬などがあります。 |
冠動脈の血管に直接作用することで血管を拡げ、心臓に送られる酸素の量を増やし発作を予防するお薬です。このお薬は血圧を下げる効果もあります。
- 顔のほてり(飲み続けているうちにおさまってきます)
- 頭痛、めまい
カルシウム拮抗薬はグレープフルーツジュースとの飲み合わせにより、薬の効果が強く出すぎる場合があります。影響の受けやすさは薬剤によって異なりますので、医師や薬剤師から注意を受けている場合は、グレープフルーツジュースの摂取を避けてください。
心不全の治療に用いられるベータ遮断薬は、虚血性心疾患の治療にも用いられます。心臓の心拍数や心筋の収縮力を増加させる交感神経のはたらきを抑え、心拍数を減少させる効果があります。心拍数を抑えたり、心筋収縮力を低下させることで、心筋が使う酸素量を減らし、心臓の負担を減らします。通常、心不全で使う量よりも多い量で使われます。
- 倦怠感、めまい、脈が遅くなる、血圧低下
血管拡張作用のある血液中の一酸化窒素(NO)を増やすことで、冠血管を拡げ、発作を予防または和らげるお薬です。胸痛発作時によく使われます。
硝酸薬は剤型が舌下錠、スプレー剤、内服薬、貼付剤の4つがあります。
内服薬と貼り薬は毎日服用(使用)することで狭心症の発作を予防するお薬です。
- 頭痛、顔のほてり
- めまい、動悸
- この薬を使用する患者さんは他の薬を併用することで過度に血圧が下がるおそれがあります。シルデナフィル(商品名:バイアグラ、レバチオ)、バルデナフィル(商品名:レビトラ)、タダラフィル(商品名:シアリス、アドシルカ、ザルティア)、リオシグアト(商品名:アデムパス)は絶対に服用しないでください。
- 貼り薬はかぶれる場合があるので、毎日貼る場所は変えるようにしてください。
舌下錠とスプレー剤は薬が速く体に吸収される舌の下に投与することにより、起きている狭心症の発作を和らげるお薬です。舌下錠は飲み込むと効果が出るまでに時間がかかってしまうので、飲み込まないように注意してください。 |
- 頭痛
- めまい、立ちくらみ
- 薬によって1回の発作に使える回数が異なりますので、医師や薬剤師の指示を守ってください。使用しても、発作がおさまらない場合は主治医に連絡してください。
- 口のなかが乾燥していると、薬が吸収されないことがありますので使用する前に、水で口のなかを湿らせてください。(このとき舌下錠は、飲み込まないように注意してください。)
- 舌下錠やスプレー剤を使用すると、血圧が下がりすぎて立ちくらみやめまいを起こすことがあるので、座って使用するようにしてください。
- 狭心症の発作はいつ、どこで起きるかわかりません。すぐ使用できるよう常に持ち歩くようにしてください。
- この薬を使用する患者さんは他の薬を併用することで過度に血圧が下がるおそれがあります。シルデナフィル(商品名:バイアグラ、レバチオ)、バルデナフィル(商品名:レビトラ)、タダラフィル(商品名:シアリス、アドシルカ、ザルティア)、リオシグアト(商品名:アデムパス)は絶対に服用しないでください。
労作性狭心症は冠動脈の動脈硬化によって生じた脂肪を含む血管内のこぶ(アテローム性プラーク)により血管が狭くなり血液がうまく流れないことで起こります。またこのアテローム性プラークが何らかの原因で傷つくと血小板が集まり、血栓が形成されます。不安定狭心症・急性心筋梗塞は、この血栓が急激に大きくなり、血液がうまく流れない(不安定狭心症)、または完全に途絶える(急性心筋梗塞)ことでおこります。
HMG-CoA還元酵素阻害薬はコレステロールの合成を抑える作用と、プラークを安定化させる(プラークの破たんを防ぐ)ことで血栓をできにくくするお薬です。
- 横紋筋融解症(筋肉痛、脱力感、おしっこが赤くなる)
- このような症状が見られた場合は、必ず医師に相談してください。発見が遅れると急性腎不全に至ることがあります。
コレステロールの値が下がったあとも、動脈硬化を改善して虚血性心疾患を予防する目的で使われることがあります。自己判断で薬を調節しないでください。
狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化をおこした血管は"血栓"(血のかたまり)ができやすい状態にあります。またPCI(経皮的冠動脈インターベンション)治療により留置したステント表面や周囲には血栓ができる可能性があります。抗血小板薬は血小板の働きを抑えて、血栓をできにくくし、血管が詰まるのを予防するお薬です。 |
- 出血傾向
抗血小板薬の共通の副作用として、出血傾向がみられます。通常よりも出血しやすく、また出血した場合には血が止まりにくいため、鼻血や歯茎から出血する、内出血ができる、転倒などによる怪我で出血がなかなか止まらないことがあります。血が止まらないときや出血が気になるときは、自己判断しないで、医師に連絡してください。
まれではありますが、重大な出血として、頭蓋内出血(初期症状:激しい頭痛、マヒ、呂律が回らない)、消化管出血(初期症状:血便、血尿がみられる)があります。このような症状があらわれた場合は、すぐに主治医に連絡してください。
- 飲み続ける期間は患者さんの状態によって異なるため、指示された期間はきちんと飲み続けてください。指示通りに服用しないと、血栓ができやすくなり、再び虚血性心疾患を起こす可能性が高くなります。
- 抜歯や手術、内視鏡検査を受けるとき、抗血小板薬の服用を一時的に中止することがあります。歯科や他院を受診するときは、抗血小板薬を服用していることを伝え、主治医にも相談してください。
慢性心不全の治療に用いるARB、ACE阻害薬は心筋梗塞後の治療にも用いられます。心筋梗塞により、壊れてしまった心筋の機能を補うため、残った正常な心筋が大きくなり、さらに心臓の機能を低下させてしまいます(心筋リモデリング)。ARB、ACE阻害薬はこのリモデリングを防ぐ作用があります。
不整脈の"心房細動"があると、心臓内の血液の流れが滞り、血栓という血のかたまりができやすくなります。この血栓が血流で運ばれ脳の血管に詰まると、脳梗塞の引き金となります。そのため、脳梗塞のリスクが高い患者さんには、血栓ができるのを防ぎ、血管が詰まるのを予防する抗凝固薬というお薬を服用してもらいます。抗凝固薬にはいくつか種類があり、患者さんの脳梗塞発症リスク、体重・年齢・腎機能などから判断し選択されます。 |
- 出血傾向
抗凝固薬の共通の副作用として、出血傾向がみられます。通常よりも出血しやすく、また出血した場合には血が止まりにくい状態になっているため、鼻血や歯茎から出血する、内出血ができる、転倒などによる怪我で出血がなかなか止まらないことがあります。血が止まらないときや出血が気になるときは、自己判断しないで、医師に連絡してください。
まれではありますが、重大な出血として、頭蓋内出血(初期症状:激しい頭痛、マヒ、呂律が回らない)、消化管出血(初期症状:血便、血尿がみられる)があります。このような症状があらわれた場合は、すぐに主治医に連絡してください。
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