(W) はWattの略でワットと読みます。この単位は活動や運動の量を表し、自転車エルゴメーターなどに表示されているワットは運動の強さ(運動強度)を表しています。ワットの数値が高くなれば、それだけきつい運動をしているということになります。
自転車エルゴメーターにおいて運動の強さは「ペダルをこぐ速さ」と「ペダルの重さ」で決まります。同じワットであれば、回転数を上げれば軽くなり、回転数を下げれば重くなります。CPXでは1分間に50~60回転の一定の速度でペダルをこいでいただき、ワットが漸増してペダルが徐々に重くなるランプ負荷というプロトコールで行います。
酸素摂取量と呼ばれており、体重1kg、1分間あたりに摂取できる酸素の量を表しています。
簡単に言うと「酸素を体内に取り込む能力」で、高いほど身体持久力が高いと言われています。
二酸化炭素排泄量 (VCO2) / 酸素摂取量 (VO2) で計算される指標です。通常安静時は 0.85前後であり、脂質のみを摂取している場合は0.70前後、炭水化物のみだと1.0前後と食事の影響を受けることがあります。運動の終了基準は自覚的な最大の運動となりますが、患者さんが予定より早く運動を中止してしまうことがあります。最高負荷時のRが1.1以上となることが、最高酸素摂取量を評価できるための十分な負荷がかかった目安としています。
METsはメッツと読み、身体活動の強さの単位です。安静時の何倍の身体活動・運動強度に相当するかを表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行 (4.0km/時)・掃除・床磨きが3メッツ、自転車に乗る・ゴルフ (ラウンド)・子供と屋外で遊ぶ・洗車をするなどは4メッツ、早歩き (6.4km/時) が5メッツ、スコップでの雪かきは6メッツ、ランニング (8.4km/h) が9メッツに相当します。詳細は下記のリンクをご参照ください。当院でもMETs表を作成しており、CPX後に患者さんに適切な運動強度について説明しています。
なお、メッツは②の酸素摂取量から計算します。1メッツは、約3.5mL/分/kgの酸素摂取量に相当します。
一分間に心臓が拍動する回数です。心臓リハビリを行う際に心拍数の設定はとても重要で、(220-年齢) ×(0.6~0.7)とも言われていますが、β遮断薬など心拍数をおさえる薬を内服していると、適切な心拍数の推測が困難となります。CPXが可能であれば、患者さんの目標心拍数を設定することができます。
心臓が収縮したときの血圧。血液が心臓から全身に送り出された状態で、血圧が最も高くなるため、最高血圧とも呼ばれます。血圧値は血管の硬さ(血管抵抗)と血液量(心拍出量)によって決まります。
心拍数と同様にその人にあった目標収縮期血圧を設定することにより、安全に心臓リハビリができるようになります。
ATとは嫌気性代謝閾値の略で、運動が激しくなってくると、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に上昇し始める運動の強さです。
つまり有酸素運動から無酸素運動に切り替わる点となります。
心臓リハビリの運動処方ではとても重要な値で、この値をもとに運動内容を決めていきます。
ATはVentilatory threshold、Lactic acid threshold、嫌気性代謝閾値、無酸素性作業閾値、換気閾値、乳酸閾値などいろいろな表現方法があります。心疾患患者での基本概念は1964年にWassermannらが提唱した概念です。
通常、酸素 (O2) は代謝経路の中の電子伝達系に入ります。酸素の供給が十分な状態(有酸素運動)では解糖系により産生されたピルビン酸がアセチルCoAになり、TCA回路で水 (H2O)と二酸化炭素 (CO2) に分解されます。しかし、運動強度が高くなると(無酸素運動)、解糖系でのエネルギー代謝亢進により、ピルビン酸の産生がそれに続くTCA回路以降の代謝率を上回ります。その結果、ピルビン酸が乳酸になり、乳酸が重炭酸イオンで緩衝されて二酸化炭素を生じます。この乳酸が産生される前の無機的代謝が加わる直前の運動強度がATとなります。
ATの求め方は
①ガス交換比 (R=VCO2/VO2) が上昇し始める点
②VCO2-VO2関係の傾きが急に増す点 (V-slope法)
③VE/VO2が増加し始める点
④PETO2 (呼気終末酸素濃度) が増加し始める点
などがあります。
CO2が過剰に産生されると動脈血のCO2が増加し、VCO2や換気を亢進させるので、VO2、VCO2およびVE (分時換気量)を測定すると体内での代謝の変化を推測することができます。
①ガス交換比 (R=VCO2/VO2) が上昇し始める点
③VE/VO2が増加し始める点
下記の図を見ると、矢印の起点からR、VE/VO2が上昇していることがわかります(タイムトレンド法)。
②VCO2-VO2関係の傾きが急に増す点 (V-slope法)
運動負荷試験の終点に達した時点の酸素摂取量であり、最大酸素摂取量の代用として運動耐容能の指標として用いられます。その評価には負荷中止に至った理由を十分に考慮する必要があります。ATと同様に男性が女性よりも値が高く、加齢とともに低下しますが、その低下の割合はATよりも大きくなります。酸素輸送能の最もよい指標であり、重症度分類の客観的評価に用いられると同時に心不全患者の生命予後指標として、また治療効果判定や運動療法の効果判定などに汎用されています。
運動処方は生体反応の遅れを考慮して、心臓リハビリ時の負荷量はAT 1分前の強度を採用しています。心拍数や血圧などはAT時の強度で行います。
- 長時間運動を持続することが可能。
- 疲労物質である乳酸の上昇が起こらない。
- 乳酸上昇によるアシドーシスが起こらない。
- 血中カテコラミンの増加が起こらない。
- 運動に対する心臓の機能の応答を保てる。
AT以上の過負荷で運動を行うと、カテコラミンの増加やアシドーシスによって、心臓に負担がかかり不整脈の誘発や、心不全患者では心臓の動き(左室駆出率)の低下が起こります。